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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)6号 判決 1983年9月28日

原告 株式会社川崎パブリツクコース

被告 建設省関東地方建設局長 国

主文

1  本件各訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  (昭和五五年(行ウ)第一二八号事件)

(一) (主位的請求)

被告建設省関東地方建設局長(以下「被告局長」という。)が昭和五五年七月一八日付け建関水第二三六号をもつてした処分のうち、不許可部分を取り消す。

(二) (予備的請求)

被告国は原告に対し、金九三一万二三六〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  (昭和五七年(行ウ)第六号事件)

(一) (主位的請求)

被告局長が昭和五六年七月二二日付け建関水第二五二号をもつてした処分のうち、不許可部分を取り消す。

(二) (予備的請求)

被告国は原告に対し、金九三一万二三六〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

1  (被告局長の本案前の申立て)

本件各訴えのうち、各主位的請求に係る訴えをいずれも却下する。

2  (本案についての申立て)

原告の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  処分の経緯

1  原告は、神奈川県川崎市幸区古市場、東古市場及び小向仲野町地先に所在する多摩川水系多摩川右岸河川区域内の土地について、神奈川県知事からゴルフ場設置の目的で次のとおり占用許可(このうち(一)の占用許可を以下「基本占用許可」という。)を受け、ゴルフコースを造成して占用(以下「本件占用」という。)を開始し、以後同所においてゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営してきた。

(一) 占用面積 四二万四七七〇平方メートル

占用期間 昭和二九年五月四日から同三九年五月三日まで

(二) (一)に追加して

占用面積 一万〇一八〇平方メートル

占用期間 昭和三五年二月三日から同三九年五月三日まで

2  その後、原告は、神奈川県川崎土木事務所長又は被告局長から次のとおり占用許可((一)及び(二)につき前者の、(三)ないし(七)につき後者の許可)を受けて、本件占用を継続してきた。

(一) 昭和三九年九月一一日付け占用許可

占用面積 三六万一四九六・〇五平方メートル(河川敷)、六七・七五平方メートル(堤防敷)

占用期間 同年四月一日から同四〇年三月三一日まで

(二) 昭和四一年三月三一日付け占用許可

占用面積 三五万九一二八・八二平方メートル(河川敷)、六七・七五平方メートル(堤防敷)

占用期間 同四〇年四月一日から同四一年三月三一日まで

(三) 昭和四一年四月一日付け占用許可

占用面積 三五万九一九六・六平方メートル

占用期間 同日から同年六月三〇日まで

(四) 昭和四一年一〇月二〇日付け占用許可

占用面積 三二万九九二八・七五平方メートル

占用期間 右のうち、一一万九四〇五平方メートルにつき同年七月一日から同四三年一二月三一日まで、二一万〇五二三・七五平方メートルにつき同四一年七月一日から同四四年三月三一日まで

(五) 昭和四四年一〇月二二日付け占用許可

占用面積 二一万〇五二三・七五平方メートル

占用期間 同年四月一日から同四七年三月三一日まで

(六) 昭和四七年四月二一日付け占用許可

占用面積 (五)と同じ

占用期間 同月一日から同四九年三月三一日まで

(七) 昭和四九年四月二四日付け占用許可

占用面積 (五)と同じ

占用期間 同月一日から同五〇年三月三一日まで

3  原告は、従前から占用許可を受けて占用していた右二一万〇五二三・七五平方メートルの土地(別紙物件目録記載の各土地及び階段部分六七・七五平方メートル)について、引き続き占用許可の申請をしたところ、被告局長は、同目録(一)記載の土地(以下「甲土地」という。)を除いたその余の同目録(二)ないし(四)記載の各土地及び階段部分六七・七五平方メートルについて、次のとおり占用許可をした。

(一) 昭和五〇年三月二七日付け占用許可(同年二月二七日付け申請)

占用期間 同年四月一日から同五一年三月三一日まで

(二) 昭和五一年七月八日付け占用許可(同年三月二九日付け申請)

占用期間 同年四月一日から同五二年三月三一日まで

(三) 昭和五二年八月二二日付け占用許可(同年三月二五日付け申請)

占用期間 同年四月一日から同五三年三月三一日まで

ただし、原告は、同五二年四月一日までに別紙物件目録(二)記載の土地のうち三一五・五七平方メートルを国に返還したので、右占用許可及びその申請に係る土地には、右三一五・五七平方メートルが除かれている。

4  原告は、昭和五三年三月一七日付けで、甲土地、別紙物件目録(二)記載の土地のうち右三一五・五七平方メートルを除いた八万六八二八・四三平方メートル(以下「乙土地」という。)、同目録(三)記載の土地(以下「丙土地」という。)、同目録(四)記載の土地(以下「丁土地」という。)及び階段部分六七・七五平方メートルの合計二一万〇二〇八・一八平方メートル(以下「本件土地」という。)について占用許可の申請をしたところ、被告局長は、同年四月二一日付けで、丁土地についてのみ、占用期間を同月一日から同五四年三月三一日までとする占用許可をした。

5  原告は、昭和五四年三月一九日付けで、本件土地について占用許可の申請をしたところ、被告局長は、同年五月二二日付けで、丁土地について占用期間を同年四月一日から同五五年三月三一日までとする占用許可をし、その余の甲乙丙土地(前記階段部分を含む。以下同じ。)については不許可とする旨の処分をした。

6  原告は、昭和五五年三月一七日付けで、本件土地について占用許可の申請をしたところ、被告局長は、同年七月一八日付け建関水第二三六号をもつて、丁土地について占用期間を同年四月一日から同五六年三月三一日までとする占用許可をし、甲乙丙土地については不許可とする旨の処分をした。

7  原告は、昭和五六年三月一六日付けで、本件土地のうち被告局長が東京電力株式会社及び日本電信電話公社に対して占用許可をした土地を除いた二〇万五五五四・五六平方メートルについて占用許可の申請をしたところ、被告局長は、同年七月二二日付け建関水第二五二号をもつて、丁土地について占用期間を同年四月一日から同五七年三月三一日までとする占用許可をし、甲乙丙土地については不許可とする旨の処分をした(6及び7の各処分のうち各不許可部分を併せて以下「本件各不許可処分」という。)。

二  本件各不許可処分の性質

本件各不許可処分は、次に述べるとおり、原告が甲乙丙土地について従前から受けていた基本占用許可を撤回する処分である。

1  河川法二四条の規定に基づく占用許可は、公共用物である河川敷地の占用権を設定することを内容とする講学上の特許又は形成処分としての性質を有するものであり、右占用権も一種の財産権であるから、財産権を保障した憲法二九条の規定の趣旨に徴し、公共の必要性をもつてしてもみだりにそれを奪うことは許されないものである。

2  そして、本件占用は、ゴルフ場の設置を目的とするものであるところ、ゴルフ場の造成とその維持、管理には莫大な資金を投下しなければならず、その回収には相当の長期間を必要とし、また、いつたん造成されたゴルフ場は、その維持、管理が適切であれば、半永久的に継続して使用することができるのであつて、ゴルフ場の経営は、用地の半永久的な継続使用を前提としているものである。したがつて、一〇年や二〇年の占用期間では到底ゴルフ場設置の目的を達することはできない。このことは、占用許可によつて河川敷地に設置されるゴルフ場についても本質的に異なるところはない。

その上、本件占用に係る河川敷地は、昭和九年五月からゴルフ場として使用され、利用者が多く有名であつたが、戦中、戦後を通じてゴルフ場としての使用が禁止され、一部は農地として耕作され、大部分は荒廃地と化していたところ、原告は、当時の川崎市長の懇請により、同二九年五月神奈川県知事から占用許可を受け、そこに災害時の避難場所をも兼ねた文化施設として本件ゴルフ場を開設するに至つたものである。原告は、その開設に当たり、離作補償料二〇〇〇万円及びコース造成費一億円を投じ、また、同四四年一月一日に一一万九四〇五平方メートル(以下「既返還地」という。)を国に返還した際、建設省河川局長の指導に従い、会員退会返還金一億円及びコースレイアウト改造費一五〇〇万円を投じて、従前一八ホールのメンバー制であつた本件ゴルフ場を九ホールのパブリツク制に改めた。

以上の事実は、河川管理者において熟知しており、それゆえ原告に対し継続して占用許可を与えてきたのである。しかも、占用許可のうちのあるものは、従前の占用許可に係る占用期間内に与えられ、その余の大部分のものは、従前の占用許可に係る占用期間の経過後に与えられているが、いずれもその占用期間の始期を従前の占用許可に係る占用期間満了の日の翌日に遡らせるものであること、基本占用許可及びその後の各占用許可に係る明示の占用期間はいずれも不相当に短いものであること等の事実に徴すれば、河川管理者においては、基本占用許可を与えた当初から、右明示の占用期間のいかんにかかわらず、本件占用の期間として、ゴルフ場の経営に必要な合理的にして最小限度の期間を予定していたものというべく、その期間は、具体的には、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和三七年六月二九日閣議決定)に基づき期間の定めのない堅固な建物の所有を目的とする借地権について政府の行う収用の例にならない、六〇年とするのが相当であり、基本占用許可を除くその後の各占用許可の実質は、新たな占用権の設定ではなく、既存の占用権に対する許可条件の承認あるいは改訂の意味をもつにすぎないものである。

したがつて、各占用許可に付された明示の占用期間は、いずれも文字通りその期間に限つて占用を認め期間経過後は当然に占用権が消滅するという趣旨のものではなく、従前の占用関係が存続することを前提として、所定期間経過後は占用許可の条件等を再考するといういわゆる条件反省期間であり、また、期間満了後用地を返還すべき旨の返地条項も単なる例文にすぎないものである。このように解することは、河川敷地の公共用性を阻害することにならないのはもとより、財産権を保障した憲法二九条の規定の精神に適合し、許可等の条件に関する河川法九〇条二項の許可の「条件は、……許可……を受けた者に対し、不当な義務を課することとなるものであつてはならない。」との規定の趣旨にもそうものである。

3  以上の次第で、基本占用許可がなされた後に原告がした河川法二四条の規定に基づく占用許可の申請は、手続上は新規の占用許可の申請の形式をとらされているとはいえ、その実質は、従前から継続してきた基本占用許可の期間更新の申請であり、したがつて、本件各不許可処分は、本件土地のうち甲乙丙土地に関する限り、期間の更新を認めないというものであつて、従前から継続してきた基本占用許可(特許)を撤回する処分にほかならないものである。

三  本件各不許可処分の違法事由

本件各不許可処分は、以下に述べる理由により違法である。

1  本件各不許可処分は、原告が基本占用許可によつて取得した甲乙丙土地についての占用権を奪う不利益処分であるところ、一般にこのような不利益処分をなすに当たつては、聴聞又は弁明の機会を与えるなど処分を受ける者の意見を十分に聴取する手続を経なければならないものとされているのにかかわらず、被告局長は、このような手続を経ることなく原告に対して不利益処分をしたものであるから、本件各不許可処分には手続上の違法がある。

2  国民に権利・利益を付与する処分(特許)の撤回は、国民の権利・利益の侵害を意味するものであるから、当該権利・利益が私法上のものである場合はもとより、本件のように公法上の河川敷地占用権であつても、いまだそれが有効な存続期間内にある限り、財産権を保障した憲法二九条一項の規定の趣旨に徴し、原則として、公共用物である当該河川敷地を本来の用途、目的のために使用すべき具体的かつ切実な緊迫せる必要が生じ、その必要性解消のためには撤回以外に手段がなく、しかも、撤回によつて実現される公共の利益が犠牲にされる占用権者の権利・利益と比べてより大きいものでなければ許されないという条理上の制約たる比例原則の要請に服さなければならない。

しかしながら、本件においては、原告が本件土地をゴルフ場として占用することにより治水上又は水利上支障を生ぜしめ、あるいは、河川敷地の自由使用を妨げたり、河川及びその付近の自然的・社会的環境を損なうなどのおそれは一切なく、原告に対して多大の犠牲を強要してまでも本件ゴルフ場を廃止しなければならない具体的かつ切実な緊迫せる公共の必要性は全くないのであり、このことは、既返還地が川崎市公開緑地と称されてはいるものの、一三年余りを経た現在においても、わずかにサイクリング・ロードが設置されている程度で、しかも、それを利用する者はほとんどなく、その大部分は荒廃するままに放置されているという一事によつても明らかである。

かえつて、本件ゴルフ場は、美観の維持のみならず、自然的環境の保全、災害時における避難場所の提供等公共の利便に役立つている。そして、ゴルフは、今日では一般大衆の手軽に楽しめる大衆スポーツであり、婦人、老人、身体障害者等にも愛好され、愛好者が飛躍的に増加していることに徴すれば、ゴルフ場は、昭和四〇年一二月二三日付け建設事務次官通達所定の「河川敷地占用許可準則」(以下「準則」という。)にいう「緑地」、「広場」又は「一般公衆の用に供する運動場」に該当するというを妨げないのである。もつとも、ゴルフ場の利用者から一定の料金を徴収することとなるが、それは、河川敷地を自然のままに放置すれば荒廃地と化して一般公衆が自由に利用できなくなるのを資金を投じて整地し、利用者に使用の便益を供することに対する一種の受益者負担であるから、河川敷地の自由使用と相容れないものではなく、この点では利用者から料金を徴収している公園、野球場、テニスコート等と変わらない。その上、本件ゴルフ場は、平坦地で、都心から近いこともあつて、利用者が多く、九ホールのパブリツク制であることから、時間的余裕のない者や、初心者、婦人、老人、若年者、身体障害者等老若男女を問わずすべての者に歓迎され、利用料金も低廉ないし無料であり、利用者は逐年増加の一途をたどり、既に九ホールのゴルフ場としては収容人員の限界に達し、近時経済不況のため都心から二時間以上の遠隔地ゴルフ場の利用者が逐年激減しているのと全く対蹠的な現象を示している。このように、本件ゴルフ場は、今日ではまことに貴重な存在であつて、準則にいう緑地、広場又は運動場に該当するというを妨げず、その一環として本件ゴルフ場を存続させることが、新しい時代の要請に即応して河川敷地である本件土地の効用を発揮させる途である。

以上の次第で、本件各不許可処分は、原告に対して多大の犠牲を強要してまでも本件ゴルフ場を廃止しなければならない具体的かつ切実な緊迫せる公共の必要性がないという点において違法である。

3  国民に権利・利益を付与する処分(特許)を被処分者の責に帰すべからざる新たな公共上の必要に基づいて撤回することは、被処分者に対して右の権利・利益を奪うという特別の犠牲を強いるものであるから、かかる場合には、被処分者に対して撤回によつて通常生ずべき損失を補償しなければならない(憲法二九条三項、河川法七六条一項)。仮に、本件において撤回に必要な要件が具備されているとしても、本件各不許可処分がなされた当時、原告において、投下資金を回収するに必要な期間が経過しておらず、本件占用を継続すべき客観的理由を有しているという特別の事情があつたのであるから、原告に対して補償がなされるべきである。

そして、憲法二九条三項の規定は、財産権を保障した同条の精神に鑑みると、財産権を公共のために用いるためには正当な補償を与えなければならないことを意味するものと解すべきであるから、正当な補償(通常生ずべき損失の補償)は、財産権を公共のために用いるための要件であつて、正当な補償を支払わないで財産権を公共のために用いることは、同条三項に違反し許されないものである。もつとも、補償金支払の時期については、法律に別段の規定がなく、また、補償金額の不服の点についても、河川法が特別の争訟方法を規定している(七六条二項、二二条四項、五項)ので、補償金支払の遅滞や補償金額の不足それ自体は、処分(撤回)の違法事由とはなりえないとしても、本件においては、被告局長は初めから補償金を支払う意思がなかつたのであるから、本件各不許可処分は、正当な補償を支払わないという点において憲法二九条三項に違反するものである。

4  河川敷地の占用許可の具体的基準を定める準則によれば、河川管理者は、昭和四一年度以降、公園、緑地、広場、運動場等一般公衆の自由な利用を妨げないもの以外は占用許可をしないというのであるから、ゴルフ場が占用許可の対象外とされていることは疑う余地のないところである。

しかるに、同年度以降においても、昭和四七年四月一日利根川河川敷地に上武ゴルフ場の、同年一二月一日大淀川河川敷地に宮崎大淀川スポーツセンターの、同四九年五月八日矢作古川河川敷地に西尾ゴルフクラブ(株式会社形態、メンバー制)の、同五一年九月一九日利根川河川敷地に玉村ゴルフ場の、同五二年八月二日石狩川河川敷地に滝川市民ゴルフ場(株式会社形態)の、同年一〇月四日利根川河川敷地に野田市パブリツクゴルフ場の各新規開設が許可され、同五七年秋には荒川河川敷地に北荒川緑地ゴルフ場の新規開設が許可される予定である。そればかりでなく、被告局長は、荒川、江戸川各流域の人口が多摩川流域の人口よりもはるかに多いにもかかわらず、荒川の都市部における河川敷地に設置されている東京都民ゴルフ場(メンバー制)、川口セミパブリツクゴルフ場(一部メンバー制)、赤羽ゴルフ倶楽部(メンバー制)浮間ゴルフリンクス(パブリツク制)や江戸川の都市部における河川敷地に設置されている松戸パブリツクゴルフ(メンバー制からパブリツク制に移行中)に対しては、占用期間の更新を行つている。

これに対し、原告は、河川敷地開放の気運が高まるや逸早く建設省河川局長の指導に従つて、九ホール分に相当する既返還地を国に返還し、かつ、メンバー制をパブリツク制に改め、利用料金も低廉ないし無料にするなど、ゴルフの大衆化、庶民の健康の保持、身体機能の回復に鋭意努め、その努力は高く評価されているにもかかわらず、被告局長が原告に対して本件各不許可処分をしたことは、準則の適用において著しく平等を欠き、憲法一四条に違反するものである。

5  公法の分野においても信義則の適用を否定すべき理由はないし、経済の高度成長と都市人口の急激な膨張に伴つて行政の作用領域が著しく増大した現代社会において、国民は好むと好まざるとにかかわらず行政作用に依存し、それを信頼して行動せざるをえないこととなつている事態にかんがみれば、行政庁と取引関係に立つ国民が、当該取引の客観的諸事情の下において行政庁が信義に従い誠実に行動するものと信頼したことに責むべき点がない場合には、その信頼は保護されなければならない。

そして、ゴルフ場のような巨額の資金を必要とする事業を始めるに当たつては、当事者の法的安定と予測可能性に対する要請が極めて切実であるところ、原告が前記二の2のような諸事情の下において、当初から本件占用の期間についてゴルフ場の経営に必要な合理的にして最小限度の期間が予定されているものと信じたことには、責むべき点がなかつたのであるから、その信頼は、信義則上保護されなければならない。

そればかりでなく、原告が既返還地を返還する際、原告と当時の建設省河川局長との間で、原告が右土地を国に返還して一八ホールを九ホールにし、かつ、メンバー制をパブリツク制に改めれば、本件土地についてはゴルフ場として長期間存続させる旨の約束がなされ、原告はこれを信じて巨額の資金を投じてその行政指導に従つてきたのであるから、このことからしても、被告局長が原告の右の信頼を裏切るような行動に出ることは許されない。

以上の次第で、九ホールのパブリツク制のゴルフ場として存続することを認めないこととなる本件各不許可処分は、著しく信義に反するもので違法である。

四  よつて、原告は、主位的に、本件各不許可処分の取消しを求める。

五  仮に、本件不許可処分が維持されるべきものであるとすれば、原告は、当初与えられた基本占用許可(特許)が撤回されたことにより本件ゴルフ場を閉鎖せざるをえなくなり、これによつて次に述べるように合計一四億九〇二三万一八五三円を下らない損失を被ることとなる。

1  占用権喪失による損失 六億二七七七万五四〇〇円

(一) 本件ゴルフ場のある河川敷地の現在の素地価格は、神奈川県下における同河川敷地に近似する河川を含む国有地の払下価格と同一であるとみられるから、その一平方メートル当たり単価六〇〇〇円に総面積二一万〇五二四平方メートルを乗じて得た一二億六三一四万四〇〇〇円である。

(二) 原告は、前記二の2のとおり離作補償料二〇〇〇万円及びコース造成費一億円を投じて本件ゴルフ場を造成し、更に、一八ホール制を九ホール制に改めるに当たつてコースレイアウト改造費一五〇〇万円を投じたが、これらの費用は、土地の使用価格を増大させ、現在時における本件ゴルフ場の価格を構成しているものというべきである。そして、これらの費用の現在価格は、離作補償料七八〇〇万円、コース造成費三億九四〇〇万円、コースレイアウト改造費五八五〇万円の合計五億三〇五〇万円である。

(三) したがつて、本件ゴルフ場に係る占用権の現在価格は、(一)の素地価格に(二)の造成費等の現在価格を加えた土地の時価一七億九三六四万四〇〇〇円にいわゆる借地権割合として相当な一〇〇分の六〇を乗じて得た借地権価格の六〇分の三五に相当する残存価格六億二七七七万五四〇〇円である。

2  将来三五年間に得べかりし利益の喪失による損失

七億七八四三万六三三〇円

3  従業員の解雇に伴う解雇手当三五年間の利息の損失

八四〇二万〇一二三円

したがつて、河川管理者たる被告局長の事務の帰属主体である被告国は、憲法二九条三項の規定を受けた河川法七六条一項、七五条二項五号の規定により、原告の被る右損失を補償しなければならない。

六  よつて、原告は、本件各不許可処分の各取消請求が認められない場合の予備的請求として、それぞれ、被告国に対し、右占用権喪失による損失補償の一部として内金九三一万二三六〇円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告局長の本案前の申立ての理由

本件各訴えのうち、本件各不許可処分の取消しを求める各主位的請求に係る訴えは、いずれも次に述べるとおり訴えの利益を欠く不適法なものである。

一  本件各不許可処分に係る原告の昭和五五年三月一七日付け占用許可申請は許可を求める占用期間を同年四月一日から同五六年三月三一日までとし、同月一六日付け占用許可申請は許可を求める占用期間を同年四月一日から同五七年三月三一日までとするものであるところ、右各期間はいずれも既に経過しているので、仮に、本件各不許可処分が取り消されたとしても、右各申請に対して改めて占用許可処分をする余地はない(ちなみに、原告は、昭和五七年三月一日付けで右各申請と同一の範囲について同年四月一日以降の占用許可申請をしている)。したがつて、本件各不許可処分の取消しを求める訴えの利益はない。

二  原告が被告局長に対してした占用許可申請の法的性質が基本占用許可の期間更新の申請であるとする原告の主張を前提にしても、少なくとも甲土地については訴えの利益を肯定することはできない。

すなわち、甲土地については昭和五〇年以降毎年不許可処分がなされているのであるが、同五一年及び同五二年の各不許可処分はいずれも取消訴訟が提起されることなく確定しているので、甲土地についての基本占用許可は消滅している。したがつて、その期間更新の申請をすること自体無意味であり、これを不許可とした処分の取消しを求める訴えの利益はない。

第四本案前の申立ての理由に対する原告の認否及び反論

一  本案前の申立ての理由一のうち、本件各不許可処分に係る原告の昭和五五年三月一七日付け及び同五六年三月一六日付け各占用許可申請が許可を求める占用期間をそれぞれ同五五年四月一日から同五六年三月三一日まで及び同年四月一日から同五七年三月三一日までとするものであることは認めるが、その主張は争う。

二  本件各不許可処分に係る原告の昭和五五年三月一七日付け及び同五六年三月一六日付けの各占用許可申請は、甲乙丙土地の基本占用許可の期間を、同五五年四月一日から同五六年三月三一日まで、更に同年四月一日から同五七年三月三一日まで更新することを求めるものである。そして、本件各不許可処分の取消請求は、基本占用許可の効力を同五六年三月三一日まで、更に同五七年三月三一日まで継続させることを目的とするもので、それにより同年四月一日以降の期間更新を求めることが可能になるのである。すなわち、本件各不許可処分の取消しは、基本占用許可の効力を継続させ、その後の期間更新を可能ならしめるものであるから、同年三月三一日が経過したからといつて、右取消請求の訴えの利益がなくなるものではない。逆に、本件各不許可処分が取り消されなければ、基本占用許可によつて与えられた占用権が同五五年四月一日又は同五六年四月一日の時点で確定的に失われてしたい、将来に向かつての期間更新を求めることができなくなるのである。

第五請求原因に対する被告らの認否

一  請求原因一の事実はいずれも認める。

二  請求原因二の2のうち、本件占用がゴルフ場の設置を目的とするものであること、原告が既返還地を国に返還した際、建設省の指導に従い、従前一八ホールのメンバー制であつた本件ゴルフ場を九ホールのパブリツク制に改めたことは認めるが、本件占用に係る河川敷地の戦前から戦後にかけての使用状況、原告が同河川敷地について占用許可を受けた経緯、原告が本件ゴルフ場に投じた資金額はいずれも不知、その主張は争う。

同3は争う。

三  請求原因三の1は争う。

同2のうち、既返還地が川崎市公開緑地となつていることは認めるが、ゴルフの今日における状況、本件ゴルフ場の経営等の状況はいずれも不知、その主張は争う。

同3は争う。

同4のうち、北荒川緑地ゴルフ場、東京都民ゴルフ場、川口セミパブリツクゴルフ場、赤羽ゴルフ倶楽部、浮間ゴルフリンクス及び松戸パブリツクゴルフに対して占用許可をしていることは認めるが、その主張は争う。

同5のうち、原告と既返還地返還当時の建設省河川局長との間で本件土地についてゴルフ場として長期間存続させる旨の約束がなされたことは否認し、その主張は争う。

四  請求原因五のうち、原告が本件ゴルフ場を閉鎖せざるをえなくなることは認めるが、原告が本件ゴルフ場に投じた資金額及びその現在価格は不知、その余は争う。

第六被告らの主張

一  本件各不許可処分に至る経緯及び同処分の適法性

被告局長が昭和四四年一月一日に既返還地の返還を受け、次いで、同五〇年三月二七日付けで甲土地について不許可とし、更に、同五三年四月二一日付けで甲土地のほかに乙丙土地についても不許可とし、その後も甲乙丙土地について不許可としたのは、次のような事情によるものである。

1  昭和三〇年代以降における都市の急激な発展、過密化の進展及び生活環境の変化の中で、公園、緑地等の慢性的不足現象がもたらされ、特に首都圏においては、公園、緑地等の不足が著しく、公共用物である河川敷地を国民のいこいの場として一般公衆に利用させるべきであるとの社会的要請が高まつた。

また、河川法(昭和三九年法律第一六七号、同四〇年四月一日施行)が施行された当時、河川敷地は、本来の目的である洪水等の安全流下の流路として利用されていたほかに、旧河川法(明治二九年法律第七一号、昭和四〇年四月一日廃止)当時の河川管理者であつた都道府県知事から占用許可を受けていた私企業等により、ゴルフ場、自動車練習場、農耕地等種々雑多な態様において独占排他的に使用されていた。

これに対し、河川法の施行に当たつて、先に述べた河川敷地の利用に対する国民的要望に加え、河川敷地が本来の目的である洪水等を安全に流下せしめるための公共用物であることから、公共用物を私企業の独占排他的な使用から開放し、一般公衆の自由な利用に供すべきであるという河川行政に対する要求も一段と強まつてきた。

このような背景の下に、建設大臣は、昭和四〇年六月一日付けをもつて、河川審議会に対し、河川敷地の占用許可の方針について諮問し、これを受けた河川審議会は、同年一一月一〇日付けをもつて、「河川敷地は、河川の流路を形成し、洪水の際には安全にこれを流過せしめ、洪水による被害を除去し、又は軽減するという極めて重要な目的に供されるべきものであるので、原則的には他の者の占用を認めるべきではないと考えるが、社会経済上の必要があつて、占用の許可を行う場合においては適切な許可方針を定める必要がある。」として、「河川敷地占用許可準則」を答申した。

この答申を受けて、同年一二月二三日付けで建設事務次官通達「河川敷地の占用許可について」が都道府県知事及び地方建設局長あてに発せられ、河川敷地の占用許可は、同通達において定められた準則に従つて処理すべき旨の方針が確立された。すなわち、河川敷地の占用許可の基本方針として、公園、緑地、広場、運動場、採草放牧地等の占用以外の占用は許可しないこととされ、しかも、既存の占用のうち、準則等に適合しないものについては、当該占用の実態、経緯等を勘案して、具体的な改善計画を樹立し、逐次、準則等に適合するように措置するものとされた。そして、本件ゴルフ場については、準則等に適合しない既存の占用であるので、2及び3のとおり開放計画を樹立することによつて、段階的にその解消を図ることとされたのである。

2  以上のような経緯を経て、建設省は、公共用物である河川敷地を広く一般公衆が利用できるようにするため、昭和四一年以来都市部における河川の計画的な開放を実施してきたが、そのうちでも多摩川の河川敷地が東京都周辺において高度に利用され、公園、緑地、運動場に対する地域住民の需要も大きく、こうした環境のなかにあつて、河川敷ゴルフ場が膨大な面積を占用していることから、多摩川について開放計画の第一号として検討を進め、昭和四一年度を初年度とし、三か年を目途とする多摩川河川敷地の第一次開放計画を定めた。

第一次開放計画は、当時の占用形態、占用の経緯等を勘案し、その対象区域は全面開放又はこれに準ずる開放(以下「準開放」という。)の措置を講ずるとともに、河川整備事業を実施することにより、河川敷地を公園、緑地として提供しようとしたものである。そして、開放された区域は、地方公共団体によつて運動場、緑地として整備された上、一般公衆に提供された。

既返還地も右第一次開放計画に基づいて原告から返還されたものである。

3  しかしながら、河川敷地の開放により公園、緑地等が提供されたものの、過密化する都市部における公園、緑地は国民一人当たりの面積が著しく不足しており、到底これをもつて賄えるものではなかつた。更に、国民の間には高度経済成長による公害の発生等による弊害から生活福祉を優先する気運が高まり、都市部における河川のもつ水と緑の空間を積極的に利用したいとする生活環境面からの河川行政への要望はその後ますます高まつてきた。

このような背景から、建設省は、河川敷地の第二次開放計画を策定し、多摩川についても昭和四九年度を初年度とする河川敷地開放四か年計画を樹立し、既占用敷地のうち、ゴルフ場については、ゴルフ練習場として計画を変更するものを除き、全面開放の措置を講ずること、私企業の運動場については、地方公共団体等への移管又は準開放を強化すること等の開放方針を決定した。

昭和五〇年三月二七日付けで不許可となつた甲土地、更に、同五三年四月二一日付けで不許可となつた乙丙土地は、いずれも右第二次開放計画に基づくものである。

右に述べたところから明らかなように、多摩川河川敷地の開放計画は、古く昭和四一年から策定実施されたものであり、第二次開放計画においても、四か年をかけて段階的に返還を求めることとして、占用者が占用面積の減少に応じて事業規模の縮小や人員の整理等を実施するのに支障のないよう十分配慮している。そして、原告に対しては、同五三年四月以降においてもゴルフ練習場として丁土地につき占用許可を与えているのである。原告は、同二九年以来二十有余年の長きにわたりゴルフ場として河川敷地を独占排他的に使用してきたものであり、その占用目的は既に十二分に達成されたと考えられるばかりでなく、今後もゴルフ練習場として事業を継続していくことが可能である。

以上のとおりであつて、昭和五三年四月二一日付け不許可処分は、前記第二次開放計画に基づき、公共用物である河川敷地を広く一般公衆が利用できるようにするため、準則に従い、原告の占用許可申請に対し、甲乙丙土地について許可しないこととしたものである。そして、これに続く同五四年五月二二日付け不許可処分はもとより、本件各不許可処分も、同五三年四月二一日付け不許可処分と全く同じ観点からなされたものであつて何ら違法ではない。

二  請求原因二に対して

1  本件各不許可処分は、原告が新たに昭和五五年三月一七日付け及び同五六年三月一六日付けで被告局長に対してした河川敷地の占用許可申請に対する不許可処分であつて、それまで有効に継続していた占用許可を撤回したものではない。

すなわち、従前から各占用許可ごとに明確に占用期間を定めていたのであり、かつ、その占用期間の設定は後記2のとおり合理的な理由に基づくものであるから、当該占用期間の満了によつて占用権は当然に消滅したものといわなければならず、したがつて、占用期間満了後も引き続き占用を許可してほしい旨の申請は、従前の占用関係が存続することを前提とする占用期間の更新申請ではなく、新たな占用許可の申請にほかならず、これに対するべき不許可処分は、決して従前の占用許可(特許)の撤回、占用期間の更新拒絶ではない。

殊に、本件各不許可処分は、甲乙丙土地について昭和五三年四月二一日付け及び同五四年五月二二日付けで不許可処分がなされた後になされているのであるから、従前の占用許可の撤回ではなく、新たな占用許可申請に対するものであることが一層明白である。

2  河川法二四条の規定に基づく河川敷地の占用許可は、特定人に対し河川敷地の本来の用法を超えて特別の継続的な使用権を設定するものであり、講学上、特許といわれる性質の行政行為であつて、右許可を与えるか否かは、河川管理者の自由裁量に属するものである。もともと河川敷地は、河川管理施設と相まつて雨水等の流路を形成し、洪水の際には安全にこれを疎通させ、洪水による被害を除却し又は軽減させるという重要な目的に供せられるべき公共用物であり、本来一般公衆の自由な使用に供せられるべきものであるから、特定人に対し本来の用法を超えて特別の使用権を設定する占用許可に当たつては、その占用期間についても、右目的を阻害することのないよう必要最小限の期間を設定すべきである。

原告に対しては、当初一〇年間というその占用目的にふさわしい長期間の占用期間を設けて占用許可を与えたものであるが、昭和三九年以降の占用許可に係るものについては、以下に述べるような理由により占用期間を設定して許可を与えてきたのである。

昭和三九年四月一日から許可した川崎土木事務所長に係るものについては、当初同年九月一一日付けでなされたことから推測すると、河川法が、同年七月一〇日公布され、同四〇年四月一日から施行となるので、これにより、多摩川が一級河川に指定され、同日から国の管理となることが想定されたことにより占用期間を一年としたものと思料される。

昭和四一年四月一日から同年六月三〇日までの許可に係るものについては、多摩川が一級河川に指定され同年四月一日から国が管理することになつたが、同月から都市部における河川については準則により開放計画を実施しなければならないことになつていたところ、具体的にそれを実施するまでには至らない事情があり暫定的に占用期間を三か月としたものである。

同年七月一日から昭和四三年一二月三一日ないし同四四年三月三一日までの許可に係るものについては、第一次開放計画が策定され多摩川については同四一年度を初年度として三か年を目途に開放することとされていたが、緑地整備事業が追いつけないなどの事情から本件ゴルフ場については開放期限を最終年度としたため、対象区域(既返還地)については占用期間を二年六か月としたものであり、それ以外は二年九か月としたものである。

昭和四四年四月一日から同四七年三月三一日までの許可に係るものについては、ゴルフ場が準則の占用許可の対象とされていないことから、占用期間は準則に定める最小限のものを適用し三年としたものである。

同年四月一日から昭和四九年三月三一日までの許可に係るものについては第二次開放計画をふまえて都市部における河川については占用期間を二年間としたものである。

同年四月一日以降の許可に係るものについては同年五月一日第二次開放計画が公表されゴルフ練習場として計画を変更するものを除き全面開放の措置を講ずることとされたこと及び緑地整備事業の推進に対処するため等の理由から一年としたものである。

3  原告は、ゴルフ場の造成とその維持、管理には莫大な資金を投下しなければならず、その経営は用地の半永久的な継続使用を前提としていると主張する。

しかしながら、半永久的に営業した後でなければ投下資本さえ回収できないというのであれば、そもそも企業として成り立つはずがない。原告の主張は、営業可能期間を投下資本回収に必要な期間とすりかえているものである。

また、原告は、基本占用許可以後繰り返し占用許可が与えられているところ、従前の占用許可期間内に占用許可された場合も、従前の占用許可期間経過後に占用許可された場合も、いずれも占用期間の始期を従前の占用許可期間満了の日の翌日にしていること等を理由に、河川管理者において、明示の占用許可期間のいかんにかかわらず、本件占用の期間として、ゴルフ場の経営に必要な合理的にして最小限度の期間を予定していたもので、その期間は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に基づき、期間の定めのない堅固な建物の所有を目的とする借地権の収用の例にならい六〇年とするのが相当であると主張する。

しかしながら、従前占用許可を受けていた者の同一土地についての占用許可申請に対し、占用許可する場合には、従前の占用許可期間内であれば、新たな占用許可期間の始期を従前の占用許可期間の最終日の翌日とすることは当然であるし、また、従前の占用許可期間経過後であつても、新たな占用許可期間の始期を右時期に遡及させることにより、許可に基づかない違法な占用状態を解消させて無用な混乱の発生を防ぎ、かつ、占用料の徴収事務を容易にすることは、妥当な実務上の措置にすぎないのであつて、このことから、被告局長が原告の継続占用を予定していたということはできないのである。また、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」は、私有財産を公共事業に用いる場合の基準を定めたものであつて、河川敷地の占用許可の場合に適用ないし準用される余地のないものであるし、ゴルフ場用地の占用権が堅固な建物の所有を目的とする借地権に比すべきものでないことは、多言を要しないところである。

要するに、原告の主張は、いつたんゴルフ場として占用を許可した以上は、ゴルフ場として使用できる限り使用させなければならないというもので、到底採用できない。

三  請求原因三の1に対して

河川法には聴聞に関する規定は存しないし、そもそも、本件各不許可処分は、新規になされた占用許可申請に対する処分であつて、原告に対して不利益を課する行為ではなく、河川管理者の自由裁量に属するものであるから、占用許可申請の目的の公共性等を十分考慮のうえ決すれば足りるものである。

四  請求原因三の2に対して

1  前記のとおり、本件各不許可処分は占用許可(特許)の撤回ではなく、また、原告の占用権は、甲土地については昭和五〇年三月三一日限りで、乙丙土地については同五三年三月三一日限りでそれぞれ消滅しているのであるから、有効な存続期間内にあるものではない。したがつて、原告の主張は、その前提において失当というべきであるが、この点は暫く措くとしても、本件においては、前記のとおり、河川敷地を開放し公共用物本来の用法である一般公衆の自由使用に供する必要性が大であるのに対し、原告は既に投下資本を回収するに十分な期間占用を継続してきたものであるから、原告の主張は失当である。

2  原告は、既返還地の大部分が荒廃するままに放置されていると主張する。

しかしながら、既返還地については、川崎市が占用許可を受けて緑地、運動場として維持、管理しているのであるが、その維持、管理について、営利企業が設置したゴルフ場と同程度の維持、管理をする必要はなく、一般公衆がいつでも自由に当該河川敷地に出入りし、その空間を利用できれば、たとえ、物的な施設の整備等が万全とはいえない状況にあつたとしても、何ら開放の意義を失わしめるものではなく、現に毎年三回草刈りが行われており、昆虫採集、散策等いこいの場として一般公衆に利用されているのである。

また、本件各不許可処分に係る河川敷地(甲乙丙土地)については、川崎市が整備計画を策定して、運動施設、レクリエーシヨン施設等を中心とした公園、緑地として一般公衆の利用に供すべく早期開放を要望しているのであつて、河川敷地開放の意義と必要性は、現在に至るもいささかも失われていないのである。

なお、多摩川の河川敷地に存在した本件ゴルフ場以外のゴルフ場は、すべてゴルフ練習場を除いて返還され、公園等として一般公衆の自由使用に供されているのである。

3  原告は、ゴルフ場、殊に低料金の本件ゴルフ場は準則にいう「緑地」、「広場」又は「一般公衆の用に供する運動場」に該当すると主張する。

しかしながら、準則において、ゴルフ場は、都市計画施設として、若しくは都市計画区域に設ける緑地、公園の一部としてのゴルフ場を除き、占用許可の対象とされておらず、準則第九に定める「緑地及び広場並びに一般公衆の用に供する運動場」には該当しないのである。そして、地方公共団体が運動施設の維持費の一部として利用者から徴している小額の利用料金と、営利を目的とする私企業のゴルフ場の利用料金とを同列に論ずることができないことはいうまでもない。本件ゴルフ場は、右占用許可の対象とされるゴルフ場に該当せず、かつ、営利企業により経営されているものであつて、右の緑地、広場、一般公衆の用に供する運動場に該当しないことは明らかである。

五  請求原因三の3に対して

1  本件各不許可処分は、前記のとおり、占用許可(特許)の撤回ではなく、新たな占用許可申請について占用許可を与えなかつたにとどまり、原告の有する占用権を消滅せしめたものではなく、甲土地について昭和五〇年四月一日以降、乙丙土地について同五三年四月一日以降原告の占用権が消滅している状態を是認した処分にすぎないものであるから、同処分に当たり、原告に対して損失補償をする余地はないものである。

したがつて、原告の主張は、その前提において失当である。

2  仮に、原告に対して損失補償がなされるべきであるのになされていない場合には、原告は、直接裁判所に対して損失補償を訴求できるのであるから、本件各不許可処分によつて原告が格別の不利益を被るものとは解されず、原告主張のように解さなければ憲法二九条の趣旨に反するものともいえない。

したがつて、損失補償がなされていないことを理由として本件各不許可処分が憲法二九条三項に違反するとする原告の主張は、それ自体失当というべきである。

六  請求原因三の4に対して

1  原告は、昭和四一年度以降においても全国の河川敷地にゴルフ場の新規開設が許可されていることから、本件ゴルフ場のみ不平等な取扱いがされていると主張する。

しかしながら、原告が比較の対象としているゴルフ場の存する河川敷地は、いずれも開放計画の対象となつておらず、殊に、被告局長が管理する利根川及び荒川河川敷地に存するゴルフ場は、いずれも都市部に存するものではないのであつて、多摩川の都市部における河川敷地に存する本件ゴルフ場とは、全く事情が異なり比較の対象となるものではない。なお、北荒川緑地ゴルフ場については、都市計画区域に設ける都市施設の緑地の一部を構成するものとして占用許可したものである。

2  原告は、被告局長が荒川及び江戸川の都市部における河川敷地に設置されているゴルフ場に対しては占用期間の更新を行つていることから、本件ゴルフ場のみ不平等な取扱いがされていると主張する。

しかしながら、同じ都市部における河川敷地であつても、多摩川と荒川及び江戸川とでは、次のとおり事情が異なるため、開放計画自体も異なる内容となつているのである。

まず、第一次開放計画では、多摩川については、既占用のゴルフ場が占用面積も最も大きく、これを広く一般公衆に開放すべきであるが、これを全面開放させると緑地整備事業が追いついていけないこと、また、一挙に実行するには摩擦が大きすぎること等を考慮して、九ホールに半減させることを目標にしたのであり、荒川については、その下流域が東京都随一の地盤沈下地帯であるため、多摩川のようにそのままの状態で公園、緑地として利用することが困難であり、盛土等高水敷の整備のための工事に多額の経費を要するので、緑地整備事業としての予算確保の可能性を主体として策定され、したがつて、多摩川のようにゴルフ場を九ホールに減ずる措置はとらず、橋梁付近等交通に便利なところ、及び相当区間にわたつて公園、緑地が得られないようなところに限つて開放するものとしたのであり、江戸川については、江戸川周辺域の人口が多摩川及び荒川ほど稠密にはなつておらず、しかも、河川敷地もまだ相当の未利用地が残されている状況にあるので、既占用敷地を無理して開放しなくても、公園・緑地整備事業を推進することにより十分地域住民の要請に応じうることから、全面開放は行わないこととされたのである。

また、第二次開放計画では、多摩川については、東京周辺にあつて高度に利用されてきた経緯があり、加えて、公園、緑地に対する地域住民の要望が強いこと等の諸事情を背景として、全面開放の計画が策定されたが、荒川及び江戸川については、前記のような諸事情があつたため、将来漸次開放することとして、既占用のゴルフ場について、すみやかにパブリツク化するとともに、ゴルフ練習場を含めて低料金を実施するよう指導することとされ、その他、荒川は、昭和四九年度以降約一一〇ヘクタールを造成し、江戸川は、未利用地約四〇ヘクタールをそれぞれ地方公共団体が積極的に公園・緑地化するよう指導することとされたのである。

したがつて、多摩川と荒川及び江戸川の河川敷地に存するゴルフ場について、その取扱いを異にするのは当然である。

3  以上のような差異を無視し、表面的な事象のみをとらえて、憲法一四条違反をいう原告の主張は失当であるのみならず、本件ゴルフ場と同じく多摩川の都市部における河川敷地に存したゴルフ場(旧多摩川ゴルフ倶楽部及び旧東急ゴルフ場)が、いずれも第二次開放計画に従い、既占用敷地の一部を返還し、ゴルフ練習場として計画を変更しているのに対し、原告のみが第二次開放計画に協力せず、本件各不許可処分に係る甲乙丙土地を返還することなく違法な占用を継続していることこそ不平等を招来するものであるといわざるをえない。

七  請求原因三の5に対して

本件占用については、前記のとおり、既にゴルフ場の経営に必要な最小限度の期間は経過しているのである。のみならず、河川敷地開放計画の実施に当たつては、事前にゴルフ場の経営者に計画内容を説明し、占用面積の減少に伴う事業の縮少や従業員対策を実施するのに支障のないような配慮を行うとともに、段階的な返還を図るなどの措置を講じてきたものであつて、信義則に反するようなことは全くないのである。

八  請求原因五及び六に対して

1  甲土地について昭和五〇年四月一日以降、乙丙土地について同五三年四月一日以降原告の占用を認めず、その占用許可申請を不許可にした処分は、前記のとおり、占用許可(特許)の撤回ではなく、新たな占用許可申請について占用許可を与えなかつたにとどまるもので、原告が有していた占用権はその占用期間が満了したことにより当然に消滅しているのであるから、本件について河川法七六条一項、七五条二項五号の規定による損失補償を要するとは解されないし、他にこれを義務付ける特別の規定も存しない。

2  仮に、原告に対する占用許可における占用期間の定めが本来の意味における期間でないとすれば、本件は期間の定めのない占用許可となるが、本件においては、前記のとおり原告の占用権を消滅させる公益上の必要性が存在すること、占用許可に当たり原告が対価の支払をした事実もなく、かえつて、一般市価をはるかに下回る低廉な占用料を支払つてきたにすぎないこと、原告は当初の占用許可が与えられた昭和二九年以来二十有余年の長きにわたり占用を継続し本件ゴルフ場を経営してきたものであつて、投下資本を回収するには十分過ぎる期間が経過していること(なお、民法六〇四条一項が賃貸借の存続期間の上限を二〇年と規定していることが本件を考えるに当たつて大いに参考となる。)等を考慮すると、本件が占用権の消滅に対する補償を要しない場合であることは明らかである。

第七証拠<省略>

理由

一  まず、本件各訴えのうち、本件各不許可処分の取消しを求める各主位的請求に係る訴えの適否について検討する。

1  請求原因一(処分の経緯)の事実及び本件各不許可処分に係る原告の昭和五五年三月一七日付け占用許可申請が許可を求める占用期間を同五五年四月一日から同五六年三月三一日までとし、同月一六日付け占用許可申請が許可を求める占用期間を同年四月一日から同五七年三月三一日までとするものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

2  被告局長は、右各申請に係る占用期間がいずれも既に経過しているので、本件各不許可処分が取り消されても、右各申請に対して改めて占用許可処分をする余地はないから、本件各不許可処分の取消しを求める訴えの利益はないと主張するのに対し、原告は、本件各不許可処分が基本占用許可の期間更新を拒絶する処分、基本占用許可を撤回する処分であることを前提として、その取消しにより、基本占用許可の効力を昭和五六年三月三一日まで、更に同五七年三月三一日まで継続させ、同年四月一日以降の期間更新を求めることが可能になるのであるから、たとえ右各申請に係る占用期間が経過したからといつて、本件各不許可処分の取消しを求める訴えの利益が失われることはないと主張する。

3  よつて、検討するに、本件各不許可処分に係る原告の占用許可申請が、昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日まで及び同年四月一日から同五七年三月三一日までの甲乙丙土地の占用権について、新規の設定を求めるものであるとすれば、右期間経過後は、目的を失うものであるから、これを不許可とした本件各不許可処分の取消しを請求する訴えの利益も失われるといわなければならない。

4  次に、本件土地に係る最初の占用許可は占用期間を昭和三九年五月三日までとするものであるところ、その後の原告の占用許可申請が、原告主張のとおり、最初の占用許可すなわち基本占用許可についての期間更新の申請であると仮定しても、前記1の処分の経緯に関する事実並びに成立に争いのない甲第五号証の一七、一九及び二〇によれば、本件土地のうち甲土地については、原告の昭和五〇年二月二七日付け占用許可申請に対する被告局長の同年三月二七日付け不許可処分により同月三一日限りをもつて、乙丙土地については、原告の同五三年三月一七日付け占用許可申請に対する被告局長の同年四月二一日付け不許可処分により同年三月三一日限りをもつて、それぞれ基本占用許可が撤回されたものといわざるをえない。すなわち、甲乙丙土地の基本占用許可は、同五〇年三月二七日付け及び同五三年四月二一日付けの各不許可処分により既に撤回されているのであり、同五五年七月一八日付け及び同五六年七月二二日付けでなされた本件各不許可処分が基本占用許可を撤回する処分でないことは明らかである。本件各不許可処分は、基本占用許可が既に撤回されていることを前提として、申請された占用期間に係る占用を不許可とするものにすぎず、右期間が経過した後は、その取消しを請求する訴えの利益は失われるのである。

原告は、本件各不許可処分が取り消されなければ、基本占用許可の継続が断ち切られ、将来に向かつての期間更新を求めることができなくなる旨主張する。しかしながら、本件各不許可処分は、基本占用許可を撤回する処分、基本占用許可の期間更新を拒絶する処分ではないのであるから、原告が将来に向かつての期間更新を求めるためには、本件各不許可処分の取消しを求める必要はなく、基本占用許可を撤回した被告局長の昭和五〇年三月二七日付け及び同五三年四月二一日付け各不許可処分がなされた後も右各不許可処分が違法で取り消されるべきものであるとして毎年基本占用許可の期間更新の申請をしている原告としては、右各不許可処分の取消請求の訴えを提起して(成立に争いのない甲第七、第九〇号証によれば、原告は現に右各不許可処分の取消請求の訴えを別訴として提起していることが認められる。)、その取消判決を得れば足りるものである。すなわち、これにより基本占用許可が回復されて、被告局長としては、基本占用許可を前提として原告の期間更新の申請に対し処分をすべきこととなるものである。その際、本件各不許可処分が取り消されずに存在していても、本件各不許可処分が基本占用許可を撤回する処分、基本占用許可の期間更新を拒絶する処分でないこと前記のとおりであるから、被告局長が将来に向かつての期間更新をする妨げとなるものではない。よつて、原告の右主張は失当である。

したがつて、本件各不許可処分に係る占用許可申請が、原告主張のように、基本占用許可の期間更新の申請であると仮定しても、申請に係る占用期間経過後は、本件各不許可処分の取消しを請求する訴えの利益は失われるといわざるをえない。

5  以上のとおり、本件各不許可処分の取消しを求める各主位的請求に係る訴えは、いずれにしても訴えの利益を欠く不適法なものといわなければならない。

二  次に、本件各訴えのうち、各予備的請求に係る訴え(以下「本件各予備的訴え」という。)の適否について検討する。

1  原告は、本件各予備的訴えにおいて、当初与えられた基本占用許可(特許)が撤回されたことにより本件ゴルフ場を閉鎖せざるをえなくなつたとして、被告国に対し、原告が右許可により甲乙丙土地について設定を受けていた占用権を喪失したことによる損失補償の一部請求として、それぞれ九三一万二三六〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。前掲甲第九〇号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第八三号証、弁論の全趣旨並びに本件記録によれば、原告は、横浜地方裁判所に対し、まず昭和五三年六月二一日、本位的請求として、被告局長が同年四月二一日付けで甲乙丙土地についてした不許可処分の取消しを求め、予備的請求として、被告国に対し本件各予備的訴えと同一の請求原因事実に基づき損失補償の一部請求として九三一二万三六〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴え(同庁昭和五三年(行ウ)第二六号事件。右予備的請求に係る訴えを以下「別訴一」という。)を提起し、次いで同五四年七月一〇日、主位的請求として、被告局長が同年五月二二日付けで甲乙丙土地についてした不許可処分の取消しを求め、予備的請求として、被告国に対し本件各予備的訴えと同一の請求原因事実に基づき損失補償の一部請求として九三一万二三六〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴え(同庁同五四年(行ウ)第二一号事件。右予備的請求に係る訴えを以下「別訴二」という。)を提起し、右各訴えは併合されて現在横浜地方裁判所第一民事部に係属中であること、そして、原告は、当裁判所に対し、同五五年一〇月六日に同五五年(行ウ)第一二八号事件、同五七年二月一日に同五七年(行ウ)第六号事件として本件各予備的訴えを提起したことが認められる。

本件各予備的訴えは、請求の趣旨及び請求の原因が全く同一であるが、右のとおり、それぞれ別訴一とも請求の原因を全く同一にし、ただ請求の趣旨が数量的に別訴一の一〇分の一にとどまるにすぎないものであり、また、別訴二とは請求の趣旨及び請求の原因を全く同一にするものである。したがつて、本件各予備的訴えは、別訴一及び別訴二と訴訟物(訴訟上の請求)の区別ができないもので、別訴一及び別訴二との関係において重複起訴に当たり、民事訴訟法二三一条の規定に違反する不適法な訴えといわなければならない。

なお、一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴えの提起があつた場合には、訴訟物となるのは右債権の一部のみであり、残部は訴訟物とならないから、別訴によつて右残部の請求をすることは重複起訴に当たらないと解しうる余地があるとしても、本件においては、本件各予備的訴えと別訴一及び別訴二との相互関係について何らの主張もなく、訴訟物の区別特定が全くできないのであるから、本件各予備的訴えは民事訴訟法二三一条の規定に違反するものといわざるをえない。

2  1の点を別にしても、なお本件各予備的訴えは、次に述べるとおり不適法な訴えである。

すなわち、原告は、本件各予備的訴えにおいて、河川法七六条一項、七五条二項五号の規定に基づき、原告の占用権喪失による損失補償の一部請求をしているところ、同法七六条一項の規定による損失補償については、同条二項により同法二二条四項及び五項の規定が準用されており、右各条項によれば、損失補償については河川管理者と損失を受けた者とが協議しなければならず、右協議が成立しない場合において河川管理者が見積つて支払つた金額に不服がある右損失を受けた者は、補償金の支払を受けた日から三〇日以内に収用委員会に土地収用法九四条の規定による裁決を申請することができるとされており、更に、同条九項によれば、収用委員会がした損失補償の裁決に対して不服がある者は、裁決書の正本の送達を受けた日から六〇日以内に損失があつた土地の所在地の裁判所に対して訴えを提起しなければならないとされている。

そうすると、河川管理者がした処分により損失を受けたとして、河川法七六条一項の規定に基づく損失補償を裁判上請求するためには、河川管理者との協議及び収用委員会の裁決を経なければならないものであると解されるところ、弁論の全趣旨によれば、原告はその占用権喪失による損失補償について、収用委員会に対する裁決申請をしておらず、収用委員会の裁決を経ていないことが認められるから、本件各予備的訴えは、収用委員会の裁決を経ていない不適法な訴えであるといわざるをえない。

三  よつて、本件各訴えはいずれも不適法であるからこれをすべて却下することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 泉徳治 大藤敏 杉山正己)

物件目録

(一) 川崎市幸区古市場地先 五万五一四〇平方メートル

(別紙図面中、イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ線で囲まれた部分)

(二) 川崎市幸区東古市場地先 八万七一四四平方メートル

(別紙図面中、ホ、ヘ、ト、チ、ホの各点を順次結んだ線で囲まれた部分)

(三) 川崎市幸区小向仲野町地先 一万二九二二平方メートル

(別紙図面中、リ、ヌ、ヨ、カ、ワ、リの各点を順次結んだ線で囲まれた部分)

(四) 川崎市幸区小向仲野町地先 五万五二五〇平方メートル

(別紙図面中、ル、ヲ、ワ、カ、ヨ、ルの各点を順次結んだ線で囲まれた部分)

図面<省略>

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